「感情はコントロールできないもの」
「気分に振り回されてしまう」――
そんなふうに感じたことはありませんか?
実は感情は“混沌”ではなく、“構造”を持っているという考え方があります。
その理論を体系化したのが、心理学者ロバート・プルチック(Robert Plutchik)
先生です。
プルチック先生は、長年の研究をもとに、
人間の感情は基本的な「8つの一次感情」から構成され、
それらが強弱や組み合わせによって多様な感情を生み出すと提唱しました。
そして、その理論を視覚的に表現したのが「感情の輪(Emotion Wheel)」です。
(画像はWikipediaより)
■基本感情
プルチック先生は、感情を以下の8つの「基本感情」に分類しています:
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喜び(Joy)
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信頼(Trust)
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恐れ(Fear)
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驚き(Surprise)
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悲しみ(Sadness)
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嫌悪(Disgust)
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怒り(Anger)
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期待(Anticipation)
これらの感情は、色相環のような円状に配置され、
それぞれが隣接する感情と混ざり合い新しい感情を生み出します。
たとえば、「喜び」と「信頼」が混ざると「愛(Love)」に、
「恐れ」と「驚き」が組み合わさると「畏敬(Awe)」になります。
さらに、
中心に近づくほど感情の強度が高く、
外側に向かうほど穏やかになる構造です。
たとえば、「怒り(Anger)」の中心は「激怒(Rage)」、
その外側には「苛立ち(Annoyance)」があります。
■感情の輪はなどんな風に使われる?
この「感情の輪」の最大の魅力は、
感情を“見える化”することで、客観視しやすくなること
にあります。感情に名前をつけ、その構造を理解することは、
自分自身や他者の感情に対して寛容でいる力=EQ(感情知性)の基盤
となります。
また、感情の輪は、以下のような場面でも役立ちます。
- 自分自身の感情理解
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他社との感情共有や教育
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チームでの心理的安全性の向上
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ストレスマネジメントやセルフケアの実践
■感情を理解し、。真の気持ちを知る
ある研修では、この感情の輪を紹介した際に、
ある管理職の方が
「いつもつい細かく言いたくなる(攻撃のようになる)部下がいるが、
彼に対して「期待」があることが理解できた。」とおっしゃってました。
その方は研修後に部下に「期待」を具体的に伝えたところ、
部下の方も自分の焦りやや不安を話してくださったそうです。
その後部下の方が本当によく力を発揮するようになり、関係が向上したと
わざわざ私にお知らせくださいました。
感情を理解し、伝えることで、関係性向上につながった一例です。
感情は、私たちが生きていることの証であり、
行動や判断の土台でもあります。だからこそ、
感情に対して構えるのでなく、“理解し対話する対象”としてとらえることが、
心豊かに働く第一歩になります。
■プルチックの感情理論について
プルチック先生の感情理論は、1980年の論文
「A General Psychoevolutionary Theory of Emotion」に基づいています。
発表後も多くの研究者がこの理論を発展・活用しており、
教育や医療、組織開発の現場でも広く応用されています。
参考文献:
Plutchik, R. (1980). A General Psychoevolutionary Theory of Emotion. In R. Plutchik & H. Kellerman (Eds.), Emotion: Theory, research, and experience (Vol. 1, pp. 3–33). Academic Press.