日々是Is'+ (アイズプラス代表 池照ブログ)

Is'+の視点による”心豊かに働くをデザインする”+もろもろについての徒然 ver.1

今年いちばん聞かれた質問――『共感力』の本当のところ

■「共感力」、今年もダントツ1位の質問

製薬、コンサルティング、法律事務所、医療機器、そしてIT関連と、
今年は特にリーダー向けの「Lead the TEAM(周囲への影響力)」
プログラムの展開が多く、そこでも「共感力」はいつもトップに上がる、
最も質問が多いテーマです。自己評価では高いつもりなのに、
EQIの結果ではスコアが低く出てショックを受ける方が多い、という
お話は以前ここでも書きました。

 

■個人だけじゃない、組織レベルでも起きている

これ、個人だけの話じゃないんです。組織レベルでも同じことが
起きているというデータを見つけました。

データで見る「共感ギャップ」

米国のBusinessolver社が2025年に発表した調査*1では、リーダーが自分をどれだけ共感的だと思っているかと、
従業員が実際にどれだけ支えられていると感じているかのギャップが、
年間1,800億ドルもの離職コストにつながっていると分析されています。
しかも従業員の27%が自分の組織を「共感的でない」と感じており、
そうした従業員は6か月以内に転職する可能性が1.5倍高いのだそうです。

「自分は共感しているつもり」が、実は相手にまったく届いていない。
これ、1on1でも、組織全体でも、同じ構図が起きているということです。
これは、根本から向き合う必要がありそうです。

■共感力は鍛えられる、という朗報

では、共感力って鍛えられないの?という質問もとても多い。
もちろん、磨き、鍛えることができます。
2024年に発表されたメタ分析(50件の研究を統合したもの)*2では、
職場での感情コンピテンシー研修は中程度の効果があり、しかもその効果は
研修終了から3か月以上経っても持続することが示されています。

つまり、共感力は「一朝一夕にはいかないけれど、ちゃんと育つ」
ということが、データでも裏付けられているんです。

小さな一歩を、仕組みに

アイズプラスのプログラムでは、
Lead the SELF(まず自分を知る、自己理解)
Lead the TEAM(周囲への影響力を知る、コミュニケーションを変える)
Lead the BUSINESS(自身の役割を達成する)
を軸にプログラムを進め、多くのビジネスリーダーが
メンバーや周囲への影響として「共感」をテーマに
実践を重ね、仲間と事例のシェア、議論をしていきます。

最新の研究データや理論からの気づきはもちろんですが、
もっとも多い気づきはリーダー同士の開示からの気づきです。
自分の感覚だけを頼りにせず、時々こうして
「本当に相手に届いているか」を互いに確認する機会と仕組みを
持つこと。これがとても有用です。

まずは自分達が実践していることを共感し合う、ここから
共感の一歩がスタートできると確信し、今日も続けていきます。

 

「タックマンモデル」×感情──教科書通りのチームづくりがうまくいかない理由

■チームづくりにEQを

「教科書通りにチームづくりをしているのに、なぜかうまくいかない」
——そう感じているリーダーは多いのではないでしょうか。

実はその原因、多くの場合「タスクの進め方」ばかりに気を取られ、
「メンバーの感情がどう揺れ動くか」という視点が抜け落ちていることにあります。

最近、こうしたご相談を本当によくいただきます。今日は、私の
ワークショップで必ずご紹介する「タックマンモデル」を、EQ(感情知性)
の視点から少しだけ深掘りしてみたいと思います。


■タックマンモデルとは

タックマンモデル*1は、米国の心理学者であるタックマン博士が提唱したもので、
チームが「形成期→混乱期→統一期→機能期→散会期」
という5つの段階を経て発達する、という考え方で、ビジネス書や
チームビルディング研修で目にした方も多いのではないでしょうか。

ただ、私がいつもお伝えしているのは、この5段階を「タスクの進め方」
としてだけ捉えるのではなく、「メンバーの感情がどう揺れ動くか」
という視点で眺めてほしい、ということです。

  • 形成期──期待と不安が入り混じる
    形成期のメンバーは、期待とワクワクと同時に、緊張や探り合いの不安も
    抱えています。ここでリーダーがやるべきは、ビジョンを語ることだけでは
    ありません。「互いを知る」時間をどれだけ意図的につくれるか、が鍵に
    なります。1on1や面談などでコミュニケーションの「量」をしっかりと
    とることが大切な時期です。
  • 混乱期──最もしんどいが、避けては通れない
    混乱期は、対立や疑心が生まれる、チームにとって最もしんどい時期。
    でもここで衝突を避けてしまうと、本当の意味での「チーム」にはなれません。
    リーダーに求められるのは、正論で対立を収めることではなく、「事実」と
    「感情」を分けて聴く姿勢です。1on1などで「業務の進捗はどう?」と
    タスクだけを追うのではなく、「今、どんな気持ちでその仕事に向き合って
    いる?」と感情を受け止める問いかけをする。いわば、コミュニケーションの
    「質」に関わる時間をとることです。このひと手間があるだけで、
    メンバーは「受け入れられている」と感じ、衝突を建設的な対話へ変えて
    いくことができます。リーダーの感情マネジメント力が最も試される段階です。
  • 統一期・機能期・散会期──希望から達成感へ
    統一期に入ると、メンバーは希望や覚悟を持ち始めます。ここでもう一度「ありたい姿」を確認し合うこと。機能期では、一体感や心理的安全性が生まれ、成果が言語化されていきます。そして散会期には、達成感とともに、次の挑戦への視線が生まれます。


■タックマンモデルを知っておくメリット

なぜこの5段階を知っておく必要があるのでしょうか。
私は主に次のようなメリットがあると考えています
(ワークショップでは、ここはしっかりと演習をします)。

  • 混乱期を乗り越える準備ができる……
    対立や不協和音が起きても「これは通過点だ」とリーダーが理解していれば、
    慌てず、腰を据えて向き合えます
  • メンバーの不安を「異常」ではなく「成長のプロセス」として捉えられる……
    今どのフェーズにいるかが分かれば、感情の揺れを個人の問題にせず、
    チームの発達段階として受け止められます
  • 今のチームに必要な打ち手が選びやすくなる……
    段階ごとに、リーダーがとるべき感情マネジメントは違います。全ての
    段階に同じ関わり方をしても、うまくいかないのは当然です
  • 離職や燃え尽きの予防につながる……
    特に混乱期でのすれ違いは離脱の大きな要因。ここを乗り越える術を
    知っているだけで、チームの土台は大きく変わります
  • 「今どこにいるか」を言語化し、チームで共有できる……
    リーダーだけでなく、メンバー自身が自分たちの状態を客観視できると、
    当事者意識も高まります


■人材育成とチームづくりは何が違うのか

タックマンモデルとは、「チームの感情の発達段階」でもあるのです。
教科書通りにやってもうまくいかないと感じるのは、この感情の揺れへ
の関わりが抜け落ちているからかもしれません。

人材育成が「個人の成長」に焦点を当てるのに対し、チームづくりは
「関係性の中で起きる感情の変化」を扱う仕事だと、私は考えています。

タックマンモデルとEQについては、拙著『感情マネジメント』にも書きました。
ご興味ある方は、ぜひ手に取ってみてください。

心豊かに働くチームを、一緒にデザインしていきましょう。

感情マネジメント――自分とチームの「気持ち」を知り最高の成果を生みだす




EQから始めるWellbeing

先週は、日経ビジネススクールの講座
「変革リーダーのためのEQコミュニケーションスキル」が開催され、
全員所属が異なる企業からのご参加という会になりました。
職種も役職も違い、誰もが持つ「感情」を軸に、「変革とEQ」を
キーワードに濃い時間、ご参加の皆様からも、

・これまでで最も心に響いた講座
・EQの大切さが理解でき、実践的だった 

というお言葉を頂戴しています。この参加者の中で、
最近、企業の人事・組織開発の方から、
「Wellbeingをどう推進したらよいでしょうか」
というご相談をいただくことが、本当に増えました。

制度もつくった。サーベイも実施した。1on1も始めた。
それでも「社員が心豊かに働いている」という実感につながらない。
なぜなのでしょう。

今日は、その問いに答えるヒントとなる研究をひとつご紹介します。

 

■「人生の満足度」と結びつくEQのエビデンス

Sánchez-Álvarez, Extremera & Fernández-Berrocal(2015)が
『The Journal of Positive Psychology』に発表したメタ分析は、
EI(感情知性)と主観的幸福感(SWB)の関係を扱った25本・8,520人分
の研究を統合したものです*1

結果は、EIと幸福感の間に中程度の有意な関連(r = .32)。
中でも「自分の感情をどう扱っているか」を自己申告する形式の
EI測定(混合モデル型)が最も強い関連(r = .38)を示しました。
さらに興味深いのは、EIは日々の気分の浮き沈み(感情的幸福感)
よりも、「自分の人生に満足しているか」という認知的な評価
(認知的幸福感、r = .35)とより強く結びついていた点です。

つまりEQは、
一時的な気分の良さではなく、「自分の人生をどう評価するか」という、
より土台に近い部分に効いている可能性がある、ということ。
これは経営指標としてのWellbeingを考える上で、とても示唆的だと感じます。

もうひとつ、実務データもご紹介します。Six Secondsが中東のリーダー
418名を対象に行った調査*2では、EQ検査SEIのスコアが、達成意欲や対人関係の質、
キャリア成果などビジネス上の成功要因の53%を予測したと報告されています

EQは「良い人でいるための能力」ではなく、
成果に直結する経営資源だと捉えられている所以です。


■なぜ、Wellbeing施策は形骸化してしまうのか

しかし現場を見ていると、制度やアンケート設計ばかりが先行し、
「いざ現場で対話しようとしても感情の扱い方がわからず、
表面的な会話で終わってしまう」というケースに本当によく出会います。
指標や仕組み(制度)だけを整えても、それを動かす人側の
「感情のスキル」が追いついていなければ、Wellbeingは形骸化してしまいます。


■「あり方(Being)」を育てる具体的な「やり方(Doing)」

ここで私が皆さんにいつもお伝えしているのが、
「あり方(Being)」と「やり方(Doing)」の関係です。

Wellbeingは本来、その人・その組織の「あり方」の問題です。
しかしEQは、そのあり方を土台から育てるための、具体的に鍛えられる
「やり方=スキル」を含めた概念です。
自己認識、自己管理、共感、意思決定──これらは才能ではなく、
トレーニングで伸ばせる力です。

「あり方」だけを掲げても抽象論で終わりがちで、
「やり方」だけを教えても表面的なテクニックで終わりがちです。

この両輪が噛み合ったとき、初めてWellbeingは一過性の施策ではなく、
組織に根づく良い循環になっていく——
現場でご一緒する中で、そう実感しています。

Wellbeing施策だけでなく、「Wellbeingをつくる人と組織をつくる」に
ご関心のある方は、ぜひ一度ご相談ください。EQ視点で話していきましょう。

👉次回の日経ビジネススクール
「変革リーダーのためのEQコミュニケーションスキル」は
11月27日です♪ このブログで紹介した”自己申告する形式の
EI(感情知性)測定型アセスメント”を活用しています。

変革リーダーのためのEQコミュニケーションスキル<11月期>:ビジネス講座は 日経ビジネススクール

 



*1:file:///C:/Users/ikete/Downloads/Therelationbetweenemotionalintelligenceandsubjetivewellbeingametanalyticinvestigation.pdf

*2:

Leadership & Emotional Intelligence in Middle East • Six Seconds

「アイズプラスEQチェックリスト」、商標登録されました!

このたび、私たちが開発してきた
「アイズプラスEQチェックリスト」が商標登録されました!
ずっと現場で使い続けてきたツールに、こうしてひとつの節目がついたこと、
感慨深く受け止めています。

このタイミングで、このチェックリストがどんな想いから生まれ、
どう育ってきたのか、そしてこれからどう広げていきたいのかを、
あらためて書き留めておこうと思います。

■なぜ「チェックリスト」?

EQ(感情知性)の理論は、「感情を素直に表現する」「自分を主張する」
ことが成長の前提として語られることが多く、協調性や場の空気を大切に
する組織文化の現場でEQファシリテーターとして伝え続けるなかで、
私はずっと小さな違和感を抱えてきました。
そうした現場では、欧米からそのまま輸入された理論がしっくりこない瞬間が
あったからです。


そこで大切にしたのが、「ありたい姿」という起点でした。
感情をどう表に出すかではなく、まず自分が「どうありたいか」をイメージ
すること。そこから逆算して、日々の行動やコミュニケーションを選んでいく。
このチェックリストは、そうした「ありたい姿から開発を進めるEQの取り組み」
を、一人でも多くの方に体感していただくためにつくったものです。

■評価でなく、「理解」に向けて

チェックリストというと、つい「自分のEQを測る/診断する」ものだと
思われがちですが、これはそもそもの目的が違います。
15の質問に答えることを通じて、「EQとはこういうものなのか」という
概念そのものを、頭ではなく体感として理解していただくためのツールです。

点数はあくまで現状把握と、これからの改善のヒント。
自己認識・自己マネジメント・他者理解・関係性マネジメントという4つの領域に、
「ありたい姿」を加えた5つの領域それぞれで、日々の小さな行動からEQを育てて
いけるように設計しています。

ありがたいことに、このチェックリストは大学、行政、クリニック、
東京理科大学オープンカレッジなど、さまざまな現場で継続的に使って
いただいており、これまでの受検者数は3,000人を超えました。

一人ひとりの現場で、「自分のありたい姿ってなんだろう」と立ち止まって
考えるきっかけになっていることが、何より嬉しく思っています。


■商標登録という節目にあたって

今回の商標登録は、このツールが「一時的な研修コンテンツ」ではなく、
これからも責任を持って育て、広げていくための土台を整えたということなのです。

日本の職場で働く人たちが、もっと自分の「ありたい姿」を言葉にできるように。
そして、それをチームや組織のなかで分かち合えるように。これからも、
このチェックリストを一つの入り口として、日本人・日本の組織に合った形での
EQのあり方を伝え続けていきたいと思っています。

■学生達の変化から、感じること

このチェックリストを継続的に使っている山野美容芸術短期大学などの授業では、
学生たちの変化を間近で見る機会があります。最初は自分の感情を言葉にすること
に戸惑っていた学生が、回を重ねるごとに「ありたい姿」を自分の言葉で語れる
ようになっていく。そうした一人ひとりの成長を見るたびに、このチェックリスト
が単なる診断ツールではなく、確かに行動変容のきっかけになっていることを実感
します。


このチェックリストは、私が20年近く現場で向き合ってきた
「日式EQ」というフレームワークの、いわば入口部分です。

今後は、このチェックリストをきっかけにより多くの企業・教育機関・自治体
の皆さんに触れていただけるよう、活用の場を広げていきたいと考えています。

あわせて、学生たちの成長のように、今は現場の中だけにとどまっている手応え
や事例を、これからは外に向けても発信していく機会をつくっていきたいと
思っています。「ありたい姿」から始まるEQのあり方について、これからも
発信を続けていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。


👉このEQチェックリストを活用する[東京理科大学オープンカレッジ] 秋コース
  実践で活かすEQ ~周囲を巻き込み成果につなげるEQコミュニケーション~
  のご案内です。春コースの参加者からは以下のアンケートコメントを
  いただきました。

  • 今後の仕事に生かせるようなヒントがたくさんあり、多くの学びがありました。早速、これまでに得たものを1つでも多く実践していきたいと思います。
  • 途中で、学びたいことと違うかな?と思いましたが、それはそれで、別の気づきをさせて頂き、とても勉強になりました。チームのために自分が自分の気持ちに気づくことも大切ですが、みんながこの講義を受ければいいのに…と、思いました。
  • 池照先生だからこそ深い気づきも生まれました。EQ講座を通し、私達の意識をより高めて頂けたこと感謝しております。

    詳細&お申込みはこちら→ 

 

写真は先日出張で訪れた京都金閣寺です。美しかった~✨

 

感情に投資する組織は、なぜ強いのか──感情を"資本"に変える経営デザインとは


EQに投資して、何が変わるんですか?」

先日、ある企業の経営会議に参加した時のことです。
資料を一通り説明し終えた私に、CFOがまっすぐこう聞いてきました。
"資源""資産"の話はわかりました。でも"資本"と呼ぶからには、
リターンはどう捉えますか」一瞬、ドキッとしましたが、本質を突いた問いでした。
今日はその問いへの、私なりの考えを書きます。

このブログでは、感情を「資源資産資本」という3つのレイヤーで
捉え直す取り組みをお伝えしてきました。

今回はこの続き、感情が組織の"資本"に変わる最終段階についてです。

 

■個人の資産は、そのままでは組織の力にならない

個人の中で「気づき」「意味づけ」までできた感情も、 それだけでは組織の力
になりません。組織がそこに投資し、育てる仕組みを つくって初めて、
感情は組織全体の価値を高める「資本」に変わります。

この考え方は、決して私一人の思いつきではありません。
フランス・ モンペリエ大学のベネディクト・ジャンドロン教授(経済学博士)は、
感情資本を人的資本・社会関係資本・文化資本を後押しする 「ブースター資本*1
と位置づけ、これらの資本形成に不可欠な存在だと 論じています。

 

■データが示す、感情投資のインパクト

実際の投資効果を示すデータも増えています。TalentSmartEQ社の調査*2では、
あらゆる職種において業績を左右する要因のうちEQが最も大きな割合(58%)
を占めるとされています。

私がシニアファシリテーターを務めるSix Seconds の調査*3でも、
「EQ開発を優先している」組織ほど高業績組織に分類される 傾向が大幅に高い
ことが報告されています。同社が関わった建設機械メーカー の工場では、
EQを軸にした取り組みを通じてエンゲージメントスコアが33% から70%まで上昇し、
生産性も9.4%向上した事例もあります。

 

■では、何に投資すべきか

私が現場で提案、実践しているのは、経営目的・事業戦略をみながら、
そこに向かうまでに「人と組織」がどのように変化することが必要なのかを
洗い出し、日々の業務に直結する取り組みに結びつけていくことです。

まず、SCAをポイントに、何をするかを具体的にします。

System(制度などのインフラ的システム)、 
Culture(文化・風土としてどんな行動を当たり前にしていくのか)、
Awareness(プログラムや研修などを通じて気づく・学ぶ接点をつくる)

具体的には、
①1on1を業務進捗だけで終わらせず感情や価値観を扱う場にする、
②失敗を責任追及ではなく学習の対話に変える仕組みを人事制度に組み込む、
③サーベイで測った感情・エンゲージメントを施策に接続する、
などを各社の戦略に合わせてデザインしていくのです。

冒頭のCFOには、後日この設計図とあわせて、Six Secondsが関わった
建機メーカーの事例数値や、弊社クライアントの離職率変化の事例*4等を
お見せしました。数字を見た瞬間、彼の表情がふっと変わったのを覚えています。

感情資本への投資効果は、次の3つの指標等で可視化できます。

離職率(投資前後の変化率)
エンゲージメントスコア(サーベイの経年推移)
行動変容指標(EQアセスメント結果、1on1の質、称賛・フィードバック行動
 など、日々の行動量の変化を定点観測する指標)

例えば、離職率が1ポイント改善すれば採用・教育コストの再投下が下がり、
エンゲージメントスコアの上昇は生産性データと相関することが複数の調査で
示されています。これらを「投資額(研修・制度設計・ファシリテーションの
コスト)」に対する「変化量」として並べるだけで、感情という定性的なテーマも、
経営会議で語れる定量言語に変換可能です。重要なのは精緻な因果証明よりも、
"投資(コミットメント)→行動変化→成果"の流れを継続的に定点観測する
仕組みそのものです。

人的資本経営の開示が求められる今こそ、感情という定性的な資源を 数値と
物語の両方で語れる組織が、次の競争優位につながります。

 

■チェックリスト:
組織は、感情を「資本」として投資できていますか?

皆さんの組織では、誰もがもつ「感情」に着目し、実際に「投資」を
することで成果に結びついていますか?例えば、

・感謝や称賛が、個人任せではなく組織文化として存在する(Culture)
・失敗を責任追及ではなく学習の対話に変える仕組みが、人事制度に
 組み込まれている(System) 
・サーベイで測った感情・エンゲージメントが具体的な施策につながっている  (Awareness)

どれか一つでも「できていない」なら、個人の感情資産を組織の資本に 変換
しきれていない可能性があります。

感情を「資源→資産→資本」の循環でデザインすること。 それこそが、私たちが
「心豊かに働くをデザインする」という ミッションのもとで、これからも
取り組み続けたいテーマです。

3回にわたってお付き合いいただき、ありがとうございました。
冒頭のCFOの問いに、今なら私はこう答えます。
 「感情を、資源から資産へ、資産から資本へと意図的にデザインする 仕組みから
 得られる社員の”行動変化”が、最大のリターンです」。
皆さんの組織では、今どのフェーズにいるでしょうか。
ぜひ一度、 立ち止まって問いかけてみてください。

 

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*1:

Gendron, B. (2007). "Emotional Capital: a crucial capital for a
citizenship society with personal, social and Economic returns." In
*Citizenship Education in Society*, A. Ross (Ed.), London, p.401-416.

Gendron, B. (2004). "Why Emotional Capital Matters in Education and
in Labour? Toward an Optimal Use of Human Capital and Knowledge
Management." EERA Conference.

*2:

TalentSmartEQ, "Emotional Intelligence at Workplace to Improve
Performance." https://www.talentsmarteq.com/emotional-intelligence-at-workplace-to-improve-performance/

*3:

Six Seconds(関連団体Pause Factory掲載ケーススタディ)
"Increasing Employee Engagement: Case Study."
https://pausefactory.org/increasing-employee-engagement-case-study

*4:

離職率が24%→8%に!?「魅力的なリーダー」になるためにできる2つのこと | 感情マネジメント | ダイヤモンド・オンライン

その感情、意味づけていますか?──感情が"資産"に変わる瞬間


■「この不安、実は変化を恐れているだけかも」

先日、コーチングを担当する事業部トップがそう言葉にした瞬間、
表情がふっと和らぎました。感情に気づいただけでは、
それはまだ資産になりません。そこに"意味"をつけて初めて、
自分の中に蓄積される資産に変わります。

 

■意味づけが、心理的資本をつくる

「この不安は、変化を恐れているサインだ」
「この誇らしさは、自分が大切にしてきた価値観と一致した証だ」——
そうやって感情に意味づけをする行為は、経営学でいう
「心理的資本(Psychological Capital)」の考え方とも重なります。
米ネブラスカ大学のフレッド・ルーサンス教授らが提唱したこの概念は、
希望・自己効力感・レジリエンス・楽観性という4つの心理的な強みで構成され、
単なる気分ではなく、意図的に開発し蓄積できる資本だと位置づけられています。
2011年発表の大規模メタ分析では、心理的資本の高さが仕事への満足度や
組織へのコミットメント、業績と一貫して正の関係にあることが示されました。

 

■意味づけができた人に、何が起こるか

脳科学者のダニエル・シーゲル博士は、感情が急激に高まった際
などに鎮めるための手法として「Name it to Tame it」を提唱しています。
沸き起こった感情に、名前を付けていくことが、我々の「脳」自体を
整えることになり、効果的に落ち着くというものです。
この動画では、この手法のメカニズムを、脳の動きと共に解説しています。

 意味づけができるようになった個人には、大きな変化が起きます。
意味づけは、人間関係の円滑化や自身のパフォーマンス維持、トラブルの
解決においても非常に効果的です。

感情に振り回される時間が減り、意思決定が速くなる。同じ出来事でも
「またか」ではなく「これは何のサインだろう」と捉え直せるようになる。
これは、キャリアの自律性や、対人関係の質にも直結します。

■チェックリスト:
 組織は、感情を資産として育てられていますか?

私たちが、感情に着目し、意味づけをすることで業務や価値づくに活かす
場面で、「意味づけ」に向けた対話や問いが活用されているでしょうか。

・1on1が業務進捗だけで終わっていない
・失敗したとき、責任追及より学習につながる対話がある
・感情が動いた出来事を、共有する機会がある

どれか一つでも「できていない」なら、社員個人の感情はまだ「資源」
のまま止まり、組織の資産として意味づけられていない可能性があります。
次回は、この資産を組織の「資本」に変えるプロセスについてお伝えします。

 

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気づかれない感情は、ないのと同じ──"資源"としての感情


■「今、どんな感情ですか?」に固まる人たち

先日、ある企業の管理職向けワークショップで「今、どんな感情ですか?」
と聞いたところ、多くの方が一瞬固まりました。「特にないです」「普通です」——
そう答える方が実はとても多いのです。

 感情は、気づいてこそ資源になる

感情は、誰もが生まれながらに持っている個人のリソースです。
嬉しい、悔しい、不安、期待——その一つひとつが、自分が何を大切に
しているかを示すサインです。この「気づく」段階こそが、資源としての感情。
まだ何にも使われていない、ただそこにある力です。


■”気づき”が苦手な私たち

ところが我々は、この「気づき」がとりわけ苦手だと感じています。
私のワークショップでは、チェックインで自分の感情状態・機嫌を
数値と色で表す「ムードメーター*1」を使います。
「あなたの機嫌の状態は?」に対し、数%の方が「わからない」
とおっしゃるのです。ご自身の感情や機嫌を聴いているのに、です。
ですが、これは珍しいことではありません。

特に日本的と言われる「空気を読む」文化の中で育つと、自分の感情より先に、
場の感情や相手の感情を優先する癖がつきます。結果、自分自身の感情には
鈍感になり、
 「疲れているのに気づかない」
 「怒っているのに"大丈夫です"と言ってしまう」
状態が常態化します。
これが続くとどうなるでしょうか?
 ストレスフルな状態が続き、心身に悪影響が出る
 周囲に真意が伝わらず、感情が爆発してしまう など

これは弱さではなく、訓練不足です。
気づき、対応する力は、後天的に鍛えられます。

ストレス心理学者ホブフォルの資源保存理論*2では、
人は心理的な強み・時間・エネルギーといった資源を獲得し、
守り、育てようとする存在だとされています。
感情もまた、この資源の一つとして捉えることができます。

この視点で、私自身の失敗を振り返ってみます。

■ 見過ごした「不安」というサイン

数年前、あるプロジェクトのメンバーだった男性から、
こう言われたことがあります。
「今回のプロジェクト、正直、結構不安なんです」

コンスタントに成果を出すことこそが自分の価値だと信じていた当時の私は、
その「不安」という言葉を、深く聴こうとしませんでした。
「あ、不安なんて誰にでもあるよ。気にしない、気にしない」
そう返して、いつもの彼とは違う様子への違和感を、見なかったこと
にしたのです。

数年後、私は人づてに知ることになります。あのとき彼は、
上司である私が自分の孤独や葛藤に向き合ってくれることはないと、
すでに諦めていたのだと。

気づかれなかった彼の不安は、私にとって「存在しないのと同じ」
ものになっていました。感情は、気づかれて初めて資源になる。
気づかれなければ、どれほど大切なサインでも、なかったことにされて
しまうのです。

これは、私が長年「感情に気づく」ことをしてこなかった人間だったから
こそ起きた出来事です。感情について、聴かれた、話した、着目された経験
がほとんどなく、その必要性を考えたことすらありませんでした。


■チェックリスト:

 あなたの組織は、感情という資源に気づけていますか?

 ・会議で違和感や懸念を安心して言葉にできる
 ・管理職が自分の感情を認識した上で意思決定している

どちらか一つでも「できていない」なら、社員一人ひとりが持つ感情
という資源に、組織としてまだ気づけていない可能性があります。

次回は、この気づいた感情を「資産」に変えるプロセスについてお伝えします。


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どなたでも参加可能です。

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