日々是Is'+ (アイズプラス代表 池照ブログ)

Is'+の視点による人事、キャリア、その他もろもろについての徒然 ver.1

腐ったリンゴとおいしいリンゴ

先日の登壇で、EQやチームづくりの大切さを考える機会がありました。

登壇したのは某組織の管理職以上のEQ&コミュニケーションをテーマとした
ワークショップです。いつものように4-5名がグループになり、
演習中心にグループワークを進めていきます。自分自身のこれまでの
経験を振り返り、今後発揮していきたい(期待されている)リーダー像
についてグループでディスカッションをしていくのですが、
お一人の方は最初から納得いかない態度と発言がありました。

私の発言や解説に対し、ちょっと薄笑いをしながら
「感情ってねぇ、うちは外国企業じゃないし」
「リーダーとか考えてる人うちの会社にいないでしょ」 
と、とにかくネガティブな発言が多いのです。 

そのうち、同じグループの方も発話量が減ってきてしまい、
あきらかに他のグループと盛り上がり方に違いが出てしまいました。 

■腐ったリンゴの実験

久しぶりに見る”周囲に悪影響を与える人”を目の前にして、
「腐ったリンゴ」実験を思い出しました。

「腐ったリンゴ」実験は、オーストラリアのニュースサウスウェールズ大学で
組織行動学を研究するウィル・フォルブ氏が行ったもので、
チームに悪影響を与える人間とその影響力について実験したものです。

この実験で見出されたのは、チームに悪影響を与える人間の3タイプとして
1) 性格の悪い人(攻撃的・反抗的)
2) 怠け者(労力を惜しむ人)
3) 周りを暗くする人(愚痴・文句ばかり言う)

実験では、このような姿勢、言動をとる人が一人でもいると
チームの生産性が40%低下したという結果が紹介されています。
物理的に仕事をしない人がいる場合よりも、これらの悪影響言動が
与える影響の方がはるかに大きいのです。
なぜなら、全ての行動は感情を伴い伝播しますから。

パッと思い出せたのは、以前にWEBメディアの書評コーナーを担当
していた時に、この書籍にこの書評を書いたからです。
書評コーナーは3年以上担当したのですが、その間で自分自身が
勇気づけられた書籍の一つでもあります。
『THE CULTURE CODE 最強のチームをつくる方法』

THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法

 

■おいしいリンゴ

実験には続きがあり、腐ったリンゴを中和する「おいしいリンゴ」
として「ニコニコ話を聞き、それでもブレずに目標に向かう人」
も紹介されています。

そして「おいしいリンゴ」行動は、日々の小さな行動の積み重ねが
大きな違いを生み出していることも紹介されています。
小さな行動とは、挨拶や声かけの頻度、共感行動、目標の言語化など
誰もができる行動ばかりです。「おいしいリンゴ」行動には、
何も優秀な強いリーダーシップが不可欠な訳でなく、チームにいる誰もが
発揮できる行動ばかりです。

また、この書籍で紹介されているのは、成功しているチームにはいくつかの
共通スキルです(括弧の中は関連するEQスキル)。
①安全な環境をつくる(=心理的安全性高く、感情的温かさを高めた環境づくり)
②弱さを見せる(=互いの信頼をつくるための自己開示力)
➂共通の目的をもつ(=ありたい姿やノーブルゴールの共有)

でした。私は、これら3つのスキルを包括的に学ぶことができるのが
EQ(感情知性)だと信じています。 

■腐ったリンゴには腐る理由もあるし、腐らせない工夫もできる

今回のワークショップで悪影響のもとになっていた方には、
2つの方法でアプローチしました。

1)リーダー、リーダーシップ、EQ、ダイバーシティ、コミュニケーション
  など、これまであまり馴染のない言葉をあらためて丁寧に解説し、
  ご自分のテーマだと認識してもらい、
2)グループワークの相手を他グループのメンバーなど多様な接点を
  もつことで、視点や意見の多様性に触れる機会を増やす 

数時間上記を意識しながらワークショップを進めると、
このリンゴの方の言動が明るい方向に変わってきました。
振り返りでは、自分の部門の関係性について丁寧に観察され、
課題点を整理して議論に臨んでおられました。
この方は、数十年この組織で仕事をしていますがワークショップや
学びの機会はほぼゼロだったとのこと、管理職として期待される職務は
年々増加すれど、力をつけたり、考える機会が極端に少なかったことが、
「腐る」発言の要因の一つかと理解し、事務局の皆さんとも今後の
リーダー育成や組織改革について話し合いました。

強いチームや組織作りには、「腐ったリンゴ」実験の教訓は欠かせません。
採用、登用などの視点に活かすこと、そして
自分自身の言動の振り返りにも、活かせる視点です。