先日、ある企業の方とこんな話をしました。
「最近の若手は学歴も高く、知識もある。
でも、こちらが言ったことを期待通りにはやらない、何度言っても。」
実は似たような話を、今月に入って数名の方からうかがっています。
これは本当に、若手の能力の問題なのでしょうか。
2026年5月、Job総研(パーソルキャリア)が、働く男女421人に行った調査*1
があります(若手に限った調査ではありません)。
部下側の困りごととして多かったのは「指示が曖昧」(43.2%)。
一方、上司側は「主体性を感じにくい」(46.3%)、
「指示待ちが多い」(45.3%)を挙げています。
さらに、部下が上司から言われたくない言葉の1位は
「言わなくても分かるでしょ」(46.8%)でした。
上司は「動いてくれない」と感じ、
部下は「何を求められているのか分からない」と感じている。
同じ指示を挟んで、見えている景色が違うのです。
私は、その一因が能力ではなく、
仕事を理解するための「情報」が見えにくくなっていることにあるの
ではないかと考えています。

■「仕事のテンパり」も、大切な仕事の情報だった
私にも、忘れられない朝があります。若手社員だった頃、
いつも冷静で温厚な先輩が、深刻な焦りを浮かべていました。
何も説明されていないのに、私は「ただごとではない」と感じ、
自然とアンテナを立てていました。後になって、その日は会社が
大きな有事を抱えていたと知り、私自身も訴訟問題などを担当
することになります。
言葉がなくても、先輩の表情が「これは重大だ」と教えてくれていたのです。
そこで失われやすいものの一つが、周囲の人が働いている姿です。
いまはリモートやハイブリッドで働くことが当たり前になり、その「表情」
に触れる機会が減りました。
以前なら、隣の席の先輩が焦っている姿を見て、
「これは急いだほうがいいんだな」
「この仕事、かなり重要なんだな」
と、言葉にされなくても感じ取ることができました。電話口で必死に対応する
先輩。会議前に何度も資料を確認する上司。締切直前の、少し張りつめた
チームの空気。
こうした「先輩のテンパり」も、すべて仕事を学ぶための情報だったのです。
■「察する」を支えていた前提が、変わった
日本の職場は、言葉にされない部分を読み取ることを前提に成り立って
きました。文化人類学者エドワード・T・ホールが示した
「高文脈(ハイコンテクスト)」という考え方があります。
日本は、言葉そのものだけでなく、関係性や状況、非言語的な情報から意味
を読み取る傾向の強い文化として論じられてきました。
「言わなくても分かるでしょ」が通じたのは、同じ場所で、同じ経験を重ね、
似た価値観を持っていることが前提だったからです。
いまは、働く場所も、価値観も違います。前提が変わったのに、
「察してほしい」だけが残っている。若手の察する力が落ちたのではなく、
察するための材料が減ったのです。
材料が減ったなら、意識して言葉にして補うしかありません。
■FES:事実に、感情と提案を添える
そこで私が大切にしているのが、FESです。
F=Fact(事実):何を、いつまでに。そしてなぜ必要か、誰のためか
E=Emotion(感情):その事実に対して、自分が感じていること
S=Solution / Suggestion(解決策・提案):では、どうするか
たとえば、
「この資料を明日の午前中までに仕上げてほしい」
だけでなく、
「明日、お客様との大事な打ち合わせがあって、
この資料が必要なんです(Fact)。先方の期待が高くて、
私も少し緊張しています(Emotion)。だから、
今日中に一度ドラフトを見せてもらえると助かります(Solution)」
ここまで伝えると、若手は「何を、いつまでに」だけでなく、
なぜそれをするのか、相手が何を感じているのか、自分はどう動けばいいのか
まで理解できます。
私は、EQとは感情をコントロールする技術ではなく、感情という情報を
仕事に活かす力だと考えています。「焦っている」「不安だ」「期待している」
といった感情には、その人が今、何を大切にしているのかが含まれて
いるからです。
ただし、Emotionは、相手を動かすための圧力でも、弱みの告白でもありません。
状況の「温度」を伝える情報です。主語は「私」。「あなたのせいで焦っている」
ではなく、「私はこう感じている」を伝えます。
■若手からも、FESを
FESは、上司から部下への一方通行ではありません。
若手からも、
「ここまでは理解できています(Fact)。
でも、この部分は少し不安です(Emotion)。
先輩ならどう考えるか教えてください(Suggestion)」
と伝えてみる。同じ場所にいなくても、感情が言葉になれば、人は相手の
状況を想像できます。そこに共感が生まれ、次に必要な一手も見えてきます。
■明日からの一歩
「見ればわかる」が通じない職場になったからこそ、
「感じていることまで、言葉にする」。
次に誰かに何かを頼むとき、いつもの依頼に「なぜ必要か」と
「私はこう感じている」を一文ずつ足してみてください。
それだけで、仕事の意味は大きく伝わりやすくなります。
ぜひ一緒に、互いの想いが通じる職場づくりを、進めていきましょう。
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